私たちの棚仕立ての畑は、すべてビニールで覆っています。それは、農薬を使わずにブドウを病気から守るための方法です。「自然ではない」「温室栽培だ」と言われることもありますが、私はそうは考えていません。ビニールで覆っているのは棚の上部だけで、サイドは開放しているので、風が心地よく通り抜け、温室とは異なります。例えるなら、傘をさしているような感じです。 ブドウの病気の多くは「雨」が原因だと考えています。そのため、雨の影響を軽減することで、農薬を使わず（有機栽培で許されるボルドー液や硫黄も使っていません）栽培が可能になっています。しかし、ブドウの根には雨水が大切ですので、ビニールで覆うのはギリギリまで待ちます。開花の直前が最適なタイミングと考えて、他の農家よりも約2ヶ月遅く覆い作業を行っています。これによって、開花時の高温障害を避け、健全な果粒が育つのです。 ここ置賜地方、赤湯の地区は四方を山に囲まれ、「アジアのアルカディア」とも呼ばれる美しい盆地です。この地形の恩恵で、毎日山からの風が空気を入れ替え、ビニールで覆われた圃場でも自然の風が通ります。この環境の中で、私たちはこれからも農薬を使わずにブドウを育て続けていきたいと考えています。ブドウ本来の力を引き出し、自然と調和したワイン作りを目指しているのです。この方法で育てたブドウは、よりピュアで繊細な味わいを生み出します。

私たちが目指しているのは、ブドウの「皮」を厚くすることです。それは、ブドウの粒を支える「果梗」も太くなることを意味します。この2つは、特にデラウェア（私たちが栽培するのはすべて種ありのデラウェアです）の「醸しワイン」において重要な要素です。果皮や果梗には自然酵母が多く存在し、農薬を使わずに栽培することで、その自然酵母が守られます。そして、この自然酵母が「醸し」によって、私たちだけが生み出せる特別な味わいをもたらしてくれるのです。 30年以上のワイン造りの経験から、培養酵母の利点も理解していますし、それによって素晴らしいワインが作られていることも知っています。しかし、私たちは赤湯で育ったブドウと自然酵母を使い、この土地ならではの「赤湯のワイン」を造りたいと考えています。ワイン造りは農業の一部であり、私たちはその基本に立ち返りたいと思っています。だからこそ、私たちの「醸し」には深い意味があるのです。 果皮が厚く、果梗が太いことで、より長い浸出が可能となり、特に果皮の成分がワインに「強さ」をもたらします。これにより、酸化防止剤を使わずに「長期熟成」ができるワインの仕込みも実現できるのです。農薬を使わない栽培が、私たちのワインの味わいを形作る重要な要素であることを、ぜひ感じていただけるでしょう。この手法で作られるワインは、自然の力が生み出す深みと複雑さを持ち、時間が経つほどにその真価を発揮します。

私たちのワインはすべて「自然発酵」で作られています。ただし、発酵がうまく進まない場合に備えて、培養酵母もきちんと用意しています。収穫の際には厳選し、腐敗したブドウは一切持ち込まないようにしています。腐敗果が入ると「自然発酵」に悪影響を与え、醸造環境を乱す原因になるからです。場内の清潔さと低温管理が基本であり、仕込み時には10℃以下の環境を保っています。夏でも体が震えるような寒さの中で作業しています（笑）。 この低温環境の下、自然酵母は約2週間かけてゆっくりと発酵を始めます。この間にコールドマセラシオンが行われ、果皮や果梗からの成分がじっくりと果汁に溶け込み、独特の旨味が形成されます。その後の発酵も低温でじわじわと進み、さらに成分がワインに溶け込み続けます。平均して約40日間かけて発酵が完了しますが、品種によっては4ヶ月もの発酵期間を要するものもあります。 畑で育てたブドウに自然に付着した酵母による「自然発酵」だからこそ、毎年異なる味わいのワインが生まれ、その年の気候や土壌の特徴を楽しむことができるのです。この仕込みは、私たちの農作業の集大成であり、ブドウが持つ力を最大限に引き出すことを目指しています。ワインを通じて、その年の畑に感謝の気持ちを込め、自然との調和を味わっていただければ幸いです。こうして生まれるワインは、その年ごとの個性が際立ち、いつも新たな驚きをもたらしてくれます。